朝はまだ晴れていて、スマホには前の会社の後輩から「会社を辞めます」の連絡が届いていた。知り合いが色んなところに広がっていくのは楽しいことだ。また一緒に仕事ができるかもしれないし。 その後輩と、先輩のAさんと三人で、たまーに読書会をしている。今回は後輩が本を選ぶ回で、彼女が選んだのは佐藤正午さんの「熟 …
風はじっとして動かず、木蓮は花を咲かせようと空に向かって背伸びしている。保育園へ息子を送った帰り、青空を眺めながら電線に沿って帰る。
グレイヘアをきれいにまとめた和服姿の女性が、英語の教科書を開きながらスマートフォンをじっと真剣な表情で見つめている。 朝、最寄駅のミスタードーナツには、英語の単語帳を開く女性がもう一人。白いスニーカーに肩には黒のダウンジャケットを引っ掛けて、肩肘を頬につきながらページを行ったり来たり。 天井のスピー …
息子と一緒の枕で寝る。のは窮屈だから、私の枕に乗った息子の重い頭をどかして、隣のベッドへずらす。 午前二時、娘にミルクをあげてからベッドに戻る。いない間に、息子は私のベッドで眠っている。 肩を縮こめながら布団に潜りこみ、自分の布団を息子にもかけて、隣同士で一緒に眠る。
暗い階段を、息子と一緒に登る。保育園の園庭でめいっぱい汚された小さな靴が、一段一段上がるたびに小さく音を響かせる。 今日から一週間、マンションのエレベーターは工事中。 1,2,3,4と数をかぞえながら登る。私と息子の声が暗い空間を満たしていく。7段登ったら、折り返してもう7段。息子は4が苦手で、飛ば …
西宮北口の兵庫県立芸術文化センターで、岡田利規『未練の幽霊と怪物―「珊瑚」「円山町」―』を観劇した。 建物は、モダンなギリシャ神殿のようで、灰色の細い柱外縁をぐるりと囲みその間からガラス窓が透けて見える。 二階の中ホール前に開場直前に到着すると、すでに二十人ほどが二列になって整列していた。久しぶりの …
娘を抱っこしていると、自分も抱っこして欲しいと息子はせがむ。親を赤ちゃんに取られた気分だろうに怒らないのがすごいし、もちろん抱っこくらいはする。 夕方に、赤ちゃんが泣き始めて抱っこしようとしたときにも、息子は足元まで来て抱っこをせがんできた。そう思ってしまった。 「バブバブ、だっこ、てーよー(赤ちゃ …
子どもは怠惰を許さない。 息子が覚えている言葉のいい間違えをすると、彼は顔をしかめて訂正する。 生まれたばかりの娘も、歩みを止めればすぐに目を開けて抗議の泣き声をあげる。 ソファーとルーフバルコニーにつながる窓にかけたカーテンの間の7mほどの距離を、娘を抱きながら行ったり来たり。 昼間は晴れていたと …
夜明けごろ、空は深い青色。もうすぐ消えるはずの街灯がはかなげに輝いている。僕は哺乳瓶を洗っていて、早くに起きた息子はプラレールで遊んでおりガタンゴトンとおもちゃの電車が走る音が後ろから聞こえてきて、赤ちゃんはベビーベッドで静かに眠っている。 しあわせが満ちていて、こんな時間が永遠に続くかのように思わ …
ニューボーンフォトを撮った。 撮影に来てくれたお兄さんはいい感じで、妻と一緒の時期にオーストラリアへワーホリに行き、有機農業とサーフィンを学んだのだそう。帰り際に名刺をもらったけれど、事業を4つも営んでいて、個人事業主の鏡だと思った。3歳の息子との接し方も、さすが三人の子を持つお父さんだと感心した。 …
娘へ。今日は君の退院日。 看護師さん総動員で(8人くらい)がお見送りをしてくれた。妻も僕も知っている人は一人もいなかったけれど、忙しい中で全員が手を止めて「退院おめでとうございます」とお祝いの言葉を送ってくれる場面は感動的だったよ。 義母の車の後部座席に君を乗せて、その隣に僕が座った。窓から入るはじ …
次の日曜日に、娘が退院することが決まった。
車のライトに照らされるuber eatsの緑のリュックがきれいで、あれおかしいぞと思ったら、雨上がりの夜だった。 行き交う車や街頭の光を濡れたアスファルトは反射して、車についた無数の水滴が角度を変えるたびにきらきら光る。 清少納言は枕草子のなかで「雨上がりの夜」について書いているのだろうか。まだ半分 …
「これは、」と息子はぼくのカーディガンを指さして「あか」と言う。 「いや青でしょ」「あか」「青だよ」「あお」と、何度か訂正すると納得してくれた。 「じゃあ、これは」とぼくが息子のリュックに描かれているイラストの消防車を指さすと、「うー!」と息子は元気よくさけぶ。 「まぁ消防車だけどさ色のこと聞いたん …
妻が病院から帰ってきた。お腹を切ったと言うのにゆったりとだけれど元気そうに動いている。自分ならばベットにあと1週間は倒れていそうなものなのに。 娘はまだ入院している。
今日も娘に会いに、自転車を漕いでポートアイランドへ向かう。 信号待ちにスマホを取り出さず、青空を背景に凛々しい六甲山を眺める。近くに自然があって神戸は飽きない。 三宮からポートアイランドをつなぐ橋を渡る。ポートターミナル付近には何隻か船が停泊している。水面に反射した光が船の軸先に描く透明なまだら模様 …
ポートアイランドまで妻と赤ちゃんに会いに行くために家から最寄駅へ向かい最初の信号を渡ろうとしたときにハッと気がついて足を止めた。 自転車で行けそうだな。行けるな。今日、暖かいし。 11時59分に電動自転車に乗って出発。バッテリーは60%残っている。 六甲アイランドには自転車で上陸したことがある。ポー …
洗濯物を取り入れようとルーフバルコニーへ出ると、切り落として散らばった爪のように細い月が、六甲山からはまだ遠い場所で夜空に浮かんでいる。
入院している妻から娘の動画が送られてきた。 どうやら赤ちゃんは、妻に似ている。鼻筋と口元。息子が私に似ているからバランスのいいことだ。 隣駅のパンが食べたいというので買いに行き、加湿器が欲しいというので三宮をうろうろし、マウントレーニアが飲みたいというのでコンビニをハシゴした(これはパンを買いに出か …
昨日の夜から、肌がひんやりするくらいに気温が下がった。洗濯物を干しに外へ出て海の方を見やると、煙突から白い煙がどわどわ上がっている。煙突のすぐ先から上がるのではなくて、間隔を開けてやっと煙は白く変わっている。火力発電所の煙突だ。息子の誕生日に見たときは、暖かかったからか、煙は上がっていなかった。それ …
今日から妻は出産のために入院する。だというのに、朝からスーパーへ行き、夕ご飯のハッシュドビーフを作って、炊飯器も予約してくれていた。 今夜から、息子と二人きりの日々がはじまる。 仕事場から走ったり早歩きしたりして駅へ向かう。改札近くのチョコレート屋には店員が立ち、客を呼んでいる。心なしかいつもより声 …